電動アシスト自転車 センターモーターとハブモーター機構的な違いによる劣化・摩耗に関する差



2014年に導入して約22000km走行したパナソニック ビビチャージWTと、2015年に導入して約5000km走行したヤマハ パスシティL5を比較し、ハブモータ車とセンターモータ車の機構的な違いと保守性・耐久性に関するお話と、業界で一般的にはセンターモータが無難であるとされる理由についてお話します。

電動アシスト自転車のセンターモーターとハブモーターの違い

<2015年 鹿本享受の研究レポートより抜粋>
MT(マニュアルトランスミッション)の自動車で、3速や4速で発進する人はいないであろう。自転車でも自動車同様、1速で発進し速度が乗ってきたら2速、3速と順に切り替えることで、最小限の力で効率良く加速でき、さらに変速機やチェーンやスプロケットにかかる負荷を抑えることができる。内装変速機の場合、加速中に変速するとギアにダメージを与える(内装5段、8段で顕著)ため、変速時は力を抜く必要があるが、MT の自動車のようにクラッチを別で操作する必要がないため、一瞬ペダルから力を抜けば変速可能である。しかし、モータ出力が人力と共にチェーンにかかる中央モータ型の場合、ペダルから力を抜いてもモータ出力がなくなるまで若干タイムラグがあるため、通常の自転車の様にスムーズには変速できず、MT 車と似たような挙動を伴う。さらに、1速で発進すると急加速してすぐにモータ回転が頭打ちになるため使い勝手が悪い。中央モータ型の1速は激坂やアシストオフでの発進以外では使う機会がないと言っても過言ではない。
一般に、中央モータ型は高速ギアで加速することが十分可能であり、内装3段変速車であれば余程の急坂を登るときを除いて、常時3速で走っている人がほとんどであるため、前述の人力同調の悪さはほとんど問題視されていないが、変速機を使いこなして効率よく走りたい人にとっては扱いにくいと言わざるを得ない。また、駆動系の摩耗や故障のリスクは通常の自転車と比べ大きい。上位機種では高耐久な変速機やチェーンを採用し高速ギア固定であっても実用上あまり問題ないこともあるが、強く踏み込んでの急発進は禁物である。スポーツ車など内装8段変速採用車では特にトラブルが多いという。なお、中央モータ型と比べ、前輪ハブモータ型は駆動系にかかる負荷は遥かに小さいが、前輪リムが外傷を受けて交換する際などは修理費用がかさむため、修理やメンテナンス性に関して必ずしも優位であるとは言えないが、走行中の変速により大きなダメージを受ける可能性は小さい。
近年発売されたヤマハのパスには、前輪(内装 8 段変速では後輪)にスピードセンサが搭載されており、最高速ギアを除く各ギアそれぞれのアシスト速度範囲を少し拡大する機能「S.P.E.C.」がある。これにより、低速ギアでのモータアシスト頭打ち速度を高めている。しかしこれは前述の通り高速ギア固定で走る人が多い現状、効力を発揮する場面はほとんどないと言える。強いて言えば、ヤマハのパス(同社が動力ユニットを提供するブリヂストンのアシスタなどを含む)には応答性に優れた速度計機能があり、これはスピードセンサの情報により表示されるため、一役買っている。
さらに2013年以降発売されたパスの多くには、クランク軸にも回転センサを設けることで、ペダル踏力の変動によらず一定のアシストが効きやすくなった「トリプルセンサーシステム」を搭載している。これにより、例えば上り坂に差し掛かった時に、一旦ペダルを強く踏み込めばその後ある程度力を抜いてもアシストは弱まらずスイスイ進むことができる。なお、「トリプルセンサーシステム」が搭載される以前より、概してヤマハ製ユニットはパナソニック製と比較しアシストを持続しやすい傾向があるようだ。
ヤマハのスピードセンサは 2009 年頃リリースされたモデルから搭載されているが、2013 年モデルよりパナソニックもヤマハのスピードセンサ同様の機構であるホイールセンサを搭載した(蛇足だが前輪中央にあるスピードセンサ(ホイールセンサ)の位置はヤマハでは車体左側、パナソニックは車体右側であるため、スピードセンサの位置でメーカーの区別がつく)。さらに、パナソニックは2015年モデルより新開発の「マルチセンサーモーター」を主力機種に搭載しているが、これにはクランク回転センサが新たに組み込まれている。
中央モータ型のパワーユニットに関して、技術革新という点で近年はヤマハがパナソニックの一歩先を行っている感がある。そもそも電動アシスト自転車がここまで普及してきたのは、「電動アシスト自転車」を「自転車」として国に認可させたヤマハ発動機の偉大なる功績あってのものである。現在まで衰えることのない同社の開拓者精神は大いなる尊敬に値する。しかしながら、パナソニックの性能が低いわけでは決してなく、物足りないと感じるかは人それぞれである。例えばクランク回転センサは走行中に内装変速機を切り替える際にはかえって迷惑な機能となり得る。「トリプルセンサーシステム」車では、変速の際に変速機に負担をかけないためには力を抜くだけでなくペダルをほぼ完全に止めなければならず、走行中の変速を積極的に行う人にとっては難有りだ。
以前は「強力アシストのヤマハ、長距離走れるパナソニック」と言われていたが、近年では両者間の違いはほとんど感じられなくなっている。両者とも力強さに加えアシストの持続を重視してきている背景には、電動アシスト自転車は“ラクする自転車”だとする民意があると言える。この価値観が変わらない限り、この業界では自転車らしさより乗り物らしさを求めるヤマハが主導権を握り続けるであろう。