満里奈は、カフェのバイトに興味を持ち、担当者に連絡をした。
電話に出たのは人当たりの良さそうな男性で、テキパキと面接の日にちや持ち物などを指示すると、「お待ちしています」と電話を切った。
写真で確認したところ、外装は近代風のお洒落なカフェ。
オフィス街にあるためか、サラリーマンやOLの利用が多いようだった。
満里奈は、指定された日に面接に向かった。
服装は「何でもいい」とは言われたが、控えめなシンプルな白のワンピースを選ぶ。
久しぶりに袖を通すと、意外とボディラインが強調されるデザインだったことに気付く。
(ちょっとピッタリしすぎてる気がするけど……まぁ、いいか)
選び直す時間もなかったので、満里奈はそのまま家を出た。
カフェがあるのは、満里奈の住んでいるアパートから、電車で15分ほどの距離。
電車を降りると、そのカフェはすぐに見つかり、満里奈はほっと息を吐いた。
「いらっしゃいませ」
満里奈が店に入ると、黒髪で背の高い店員が声をかけてくる。
男は整った顔立ちで、優美な動きで満里奈に近づいて来た。
「お客様、よろしければこちらのメニューをご覧になって……」
と、男にメニューを差し出されて、満里奈はあわてて言った。
「あ、違うんです。私、バイトの面接で……」
すると男は、何かを思い出したようで、それまでよりも砕けた笑みを浮かべた。
「あぁ、君が満里奈ちゃん?店長、もう奥で待ってるから」
その男は「高柳」と名乗った。
高柳に促され、満里奈は店の奥にある事務所に向かい、そこで40代半ばくらいの店長と簡単な挨拶をかわした。
どうやら女性店員が足りていないらしく、できることなら今日からでも働いて欲しいということだったので、満里奈としても都合が良く、そのまま研修を受けることになった。
面接は10分もかからずに終了。
制服を支給され、簡単な書類に記入する。
「僕は、大体顔を見て人を選ぶんだ。その人の顔には、その人の人生が現れるからね」
そう言って、店長はニカッと笑い、他のアルバイトに何やら指示を出した。
すると、数分もせずに、先ほどの高柳がやってくる。
「僕は普段はあまり店に来ないから、詳しい仕事内容は、高柳君に教えてもらって」
店長はそう言って、高柳にも「よろしくね」と声をかけた。 高柳は、年齢はおそらく、満里奈より少し上だろうが、笑うと少し幼く見える。
細身に見えるが、背が高くていかにも「モテそう」な男だった。
「よろしくね、満里奈ちゃん」
そう言って、高柳は満里奈に手を差し出す。
満里奈はドキドキしながら、その手を握った。
「よろしくお願いします」
そのとき、高柳の笑みに不敵な光が宿ったが、満里奈は気がつかなかった。
「じゃあ、とりあえず制服着てくれる?」
高柳に指示され、満里奈は更衣室で制服に着替えた。
男性用の制服は、ウエイター風で普通のものなのだが、女性用の制服はピッタリとしていて胸が強調されるデザインになっている。スカートも短い。
(店長の趣味なのかな……?)
満里奈が制服に着替え、更衣室から出ると、高柳は「似合っている」と褒めてくれた。
そして、突然、胸元に手を伸ばしてきた。
(え……!何!?)
満里奈が思わず後ずさると、高柳は困ったように笑った。
「あぁ……ごめん、埃がついてたから」
(あ……そっか)
満里奈は過剰に反応してしまった自分を恥ずかしく思った。
そんな満里奈の態度を対して気にする様子もなく、高柳は続ける。
「今日は、簡単な作業をして、店での仕事に慣れてもらうよ。満里奈ちゃんは17:00〜24:00のシフトだから、キッチンかレジをやってもらいたいんだ。どっちがいい?」